(43) ジャコウアゲハ (43) ジャコウアゲハ


(解説)林の中や縁をゆっくりと飛ぶ黒色のアゲハチョウ。雌は薄い焦げ茶色。雄のチョウは ソヤコウのにおいを出すひだを後ろ羽に持っている。 食草のウマノスズクサは 独特の味やにおいを持つことから、幼虫、さなぎ、成虫ともに味が悪いと言われ、昆虫の天敵である鳥も避けるという


 濃緑の葉を付けた枝が両側からアーチを作る森の中の小道を、アゲハチョウの仲間が行ったり来たりしている。
 道の脇には、何本ものつる草が、絡まりながら立ち上がっている。雌のジャコウアゲハが、つる草の葉に止まっては飛び、飛んでは止まるという行動を繰り返す。幼虫の食草オオバウマノスズクサを探しているのだ。
 しばらくすると、チョウが一枚の葉に止まったかと思うと腹の先端を曲げ、やがて飛び去っていった。その葉をつまんで裏返してみると、そこには、鮮やかな朱色をした小さな卵が産み付けられていた。ルーペでのぞいてみると、まるで、鈴川上流の橋に見られる飾りの宝珠の形をしている。
 別の葉裏を見ると、そこには、卵の中で懸命に殻をかじり、まさに穴を空け外をのぞこうとしている小さな幼虫が、透けた殻をとおして見えた。
 時間とともに、卵の殻に穴が空き、広がって窓となり幼虫の頭がのぞいた。開かれた窓からは、緑を含んだ新鮮な空気が流れ込み、明るい木漏れ日が一筋差し込んだことであろう。守られた卵のカプセルから出た幼虫が立派なチョウになるには、これから数々の仕事をし、多くの試練を乗り越えねばならないのである。
「初心忘れるべからず」とは、人の一生の中で何度も繰り返される言葉であるが、幼虫の誕生を見ていて、ふと頭をよぎったのであった。