(40) ウスギオウレン (40) ウスギオウレン


(解説)早春の本州中部山地、主として針葉樹林で見られる。がく片花弁は細く淡黄緑色、葉はセリ葉状、根は黄色いところから黄連の名が付いた。


「ウスギオウレンの花を見に行かないか」。毎年、ひな祭りが近づくころになると、必ず誘いの電話があった。
 3月といっても山はまだ真冬。木や草の芽は堅く、セピア色の世界だ。年によっては雪も残っている。道の付けられていない山の急斜面を谷へ向かって降りて行く。スティックを頼りに足場を確保しながら、右へ左へと慎重に歩を進める。台風のときにでも倒れたのであろうか。一抱えもある大木が根を斜め上にして横たわり、それらの倒木を縫うようにしてシカ道が走る。ふと目を落とすとウスギオウレンが根を下ろし、花を付けていた。“うすぎ色”の小さな花は目を引き付けるほどの派手さはないが、早春の山深くひそかに咲くさまは、どこか心を揺するものがあった。
 株の横には黒い俵型のふんが一つ転がり、昨夜シカが訪れたであろうことを物語っていた。
 さて、毎年誘いの電話をくれたのは、植物学者として名高いU氏である。長年ウスギオウレンを見守り続けてきた人でもあるが、一昨年不慮の事故に遭い、惜しくも急逝されたのである。
ウスギオウレンは、今年もひな祭りに合わせ、山深い谷間で花を咲かせているのであろうか。