(28) ベニシジミ (28) ベニシジミ


(解説)北海道から九州まで広く分布し、幼虫で冬を越す。成虫は鮮やかな赤い羽を持つシジミチョウで、3月下旬から12月まで見られる。スイバ、ヒメスイバ、ギシギシなどを食用とする田園地域特有のチョウ。


 立春が過ぎたといってもそれは暦の上でのこと、現実は冬のさなかで寒さの一番厳しいときでもある。
 しかし、野や林に出てみると、あちこちに春の色を目にすることができる。ベニシジミの幼虫もその一つで、小さいながらも春の色を体いっぱいにまとった自然の中のべストドレッサー
なのである。
 ベニシジミの幼虫を探すには、田や畑を支えている土手へ出かけ、スイバ (スカンポ)を見つけなければならない。一見するとホウレンソウに似たスイバが、ベニシジミの幼虫にとっては寒さをしのぐ住まいであり、栄養豊富な食べ物になっているのだ。
 体長は一センチほどで平たいわらじのような形、スイバの葉が染め上げたような鮮やかな緑地に桜色をあしらい、その絶妙ともいえる色の組み合わせからは、まだ早い春を歌い上げてい
るようにもみえる。
 平安の昔、王朝貴族が繰り広げた絵巻の中に、桜萌黄吝くらもえぎ)という重(かさね)があった。表の布に萌黄色(黄味の強い緑)、裏に紅色の布を重ねた色合いで、春を彩る衣装に好んで取り入れたものだといわれている。春を待つベニシジミの幼虫の体の色合いはまさしく桜萌黄に似て、自然が織りなす技とはいえ、何とも不思議な思いにかられるのである。
 やがて、ベニシジミの幼虫は、衣を脱ぎ捨ててさなぎとなり、三月の声を聞くころには、韓紅花(からくれない)のあでやかなりん粉を羽にちりばめ、春へと飛び立つのである。